お知らせ

2021年9月

理化学研究所 桜田 一洋 博士によるセミナーを開催いたしました。

理化学研究所 桜田 一洋 博士によるセミナーを開催いたしました。

日時 :2021年8月26日(木) 15:30~17:00
場所 :Zoom配信 
講演者:桜田 一洋 博士
所属 :理化学研究所 情報統合本部 
    先端データサイエンスプロジェクト プロジェクトリーダー

タイトル:生命医科学と情報科学の新たな融合への挑戦 ~AI、データサイエンスと医療~

要旨:ダートマス会議(1956年)でAIの概念が提唱されてから、人工知能は断続的な進化を遂げてきた。1980年から始まった第二次AIブームでは専門家の知識から抽出した論理規則に基づいた知識工学・記号処理が大きく進歩した。2012年には機械学習・ディープラーニング(深層学習)が実用化し、データから対象を識別する技術が社会の様々な場所で使われるようになってきた。しかし自然科学とAIの融合は限定的である。実際、深層学習や機械学習を使ったデータ駆動型研究によって『生命現象の理解がどのように変わるのか』という研究分野の根幹が、生命医科学側でも情報科学側でも明確になっていない。
 医療は診断と治療から成り立っている。診断とは対象(疾患)を識別することであり、治療とは「診断」と「疾患に関する知識(因果関係)」を組み合わせて介入を行うことである。ディープラーニングの進歩によって画像データを中心としたデータに基づく診断の自動化が大きな進展を見せた。
 生命医科学の知識は基礎生物学や臨床研究における比較対照試験によって得られた因果モデルから成り立っている。比較対照試験とはサンプルを介入群と非介入群にわけて介入の効果を知ることであり、サンプルを構成する個々の差異は統計的に捨象される。これに対して近年注目されている精密医療(プレシジョン・メディシン)とは疾患の識別精度を上げることで、より効果の高い治療法を開発していく取り組みである。精密医療を実現するには多様な医療データを組み合わせた「教師なし学習」によって新たな疾患区分を発見する研究が必要となる。    我々は情報幾何学やエネルギー・ランドスケープ・モデルという手法を用いて疾患の多様性を定量的に表現し、卵巣がんが糖尿病などで新たな疾患区分を見出してきた。本講演ではパターン認識と記号処理を組み合わせた第四世代のAIがどのように医療に応用されるかを論じる。
 卵巣がん、糖尿病、炎症などの“記号”は医科学の知識の基盤であるが、記号による対象の識別は、疾患の連続した変化過程をうまく表現することができない。しかし人間のような複雑なシステムの連続した変化は動力学モデルだけではうまく表現することができない。高精度の予測に基づく予防医療を実現するには、従来の記号処理やパターン認識とは異なる知的推論の方法が必要である。私はこれを拡張知性(Extended Intellect, EI)と呼んでいる。本講演ではEIとはどのようなもので、医療にどのような影響を与えるのかを論じる。

世話人:小池千恵子(立命館大学薬学部) 


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